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火の都
"ルスト"。大陸『ルスト』のノティア海に面する沿岸に居を構え、王国 "ルスト"
の玄関口として中枢を担う首都。種々の人種と、雑多な職種に賑わう大都市だ。
人的・政治的に大陸・王国一の規模を誇るこの都市には、"蛇の這跡"
と呼ばれる一本の主要大街道がある。「主要大街道」の名から想起される幅広な直線街道では無い。"蛇の這跡"
の名に相応しく、曲がり、折れ、しかし場所に伸び、しかも道幅も狭隘だったり広大だったり、そのクセ決して交わる事の無い、何とも奇妙複雑珍妙怪奇な主要大街道。
何故、斯様な形で主要大街道が完成したかと言う問いは、"ルスト"
建国の歴史を紐解けば程無くして知れるだろう。
"ルスト"
の前身は、人が寄り合うようにして集まった小さな名の無き集落だった。その集落に更に人が集まり、我れ先にと建造物を建てていった。しかし、当時は測量の技術が拙く、建て終わってみればその並びは直線ではなく、緩やかな曲線を描いている事も珍しくは無かった――そもそも、その測量さえも実施せずに施工に移る家主とて多かった。
勿論、その街並みを善しとしたままであったワケでは無い。王国
"ルスト"
建国王たるベルティネ=ロテンブラッドもその一人だ。彼は神魔大戦の余波を受けて疲弊し切った当時の巨大集落――それは既に「都市」と呼べる程に成長していたらしい――に手を加え、貿易都市としての
"ルスト"
の建国に多大な貢献を残した。
しかし、永い年月はその努力さえも粉々にした。時が進むごとに街並みは戦火に呑まれ、その都度再建を余儀なくされた。その再建計画とて、適切な指導を基に推し進められれば、せめてもの救いもあっただろう。だが、時の為政者達の関心は、破壊された街並みの再興よりも、破壊した敵勢――それは時に生き残りの魔人であったり、撒き散らされた化生の群れであったり、野心に満ちた同種の生命の集団であったりした――への復讐へと向けられた。為政者達の無関心さを好機と見たのだろう、金の亡者達は争うように焼け跡を買い叩き、所有権を主張する為の建造物を建てていった。綿密な計画など立てようものなら先を越されてしまうとばかりに、当て布でもするかのように無計画に……。
結果が、今の
"ルスト"
である。現状に到ってしまえば、戦時の再建活動の無計画さを呪おうと、復興よりも復讐に人員と資金を投入した為政者を恨もうと、固まり切った
"ルスト"
の街並みを作り変える事は、事実上不可能に近かった。精々が、支道を整備して少しでも交通の便を良くする事と、新規開拓地区――具体的には
"ルスト" 北部の富豪居住区――の開発計画に過去の失敗を活かしただけだ。
このような歴史を持つが、それでも
"蛇の這跡"
は主要大街道の名に恥じない集客力を持っている。裁物屋、料品店、武器屋、装具店、療養所、鍛冶屋、民族資料館、文具店、冒険者の店、果てには夜間営業専門の同伴休憩所……。凡そ考えられうる各種店舗が、信じられないほど不規則かつ雑然とではあるが、通りに沿って揃っているからだ。
その
"蛇の這跡" の一角、"ルスト"
の中央からやや西側にずれた場所に、"胃中の鼠"
と呼ばれる区帯がある。80[m]にも及ぶ道幅は
"蛇の這跡"
内でも群を抜いて幅広く、野鼠を丸呑みした蛇の腹を連想させるが故の名称だ。その無駄なゆとりのせいだろう、中央には500[m]置きに三基の噴水が設けられている。
人通りは多いがその広さの為人口密度が低い
"胃中の鼠"
を、四人の男女が歩いていた。足取りは軽いが、目的地を持つ者特有の力強さは無かった。端的に言うと、徘徊ついていた。
四人は、奇妙と言えば奇妙な組み合わせだ。女が二人に男が二人。若年者が一人に若者が二人、壮年者が一人。それだけならば然して目立つような組み合わせではない。だが、彼らの組み合わせを奇妙と称するからには、当然理由がある。その理由というのが、この組み合わせだ。
「人間が一人に森林の妖精が一人、大地の妖精が一人に草原の妖精が一人」
全くもって取り留めの無い組み合わせ。だがそれも、彼らが冒険者であると知れば、何の違和感も無く受け入れる事ができる。それは偏に『冒険者』と呼ばれる連中が持つ偏見・先入観の賜物だろう――決して喜ばしい事ではないが――。
「はぁ……」
溜め息。四人の先頭を歩く少女の物。両手を編み帽の後ろで組みつつ、視線は赤らみ始めた空へと吸い込まれる。
一見すると10歳程度のお子様のようだ。しかしそれを本人に言うと、剣幕で食って掛かるだろう。何しろ少女――もとい彼女は、もう19歳の立派な『女性』なのだから。
彼女の名はファラ=ド。人間の目から見れば確かに彼は少女だろう。が、侮る勿かれ。いくら容姿がお子様とは言え、彼女ら草原の妖精は各人が盗賊としての天賦の才を持っているのだ。油断をすれば、忽ちの間に、大事な財布を失う事にもなりかねない。
「はぁ……」
二度目の溜め息。
「暇だよねぇ……」
物憂げな呟きは、人々の喧騒と雑踏に掻き消され、誰の耳にも届く事は無い――かと思いきや、
「忙しければ良い、と言う物でもありませんよ」
喧騒と雑踏の中、少女の言葉を耳聡く聞き分けて、静かだがよく通る青年の声が返る。ファラが体ごと180°振り返れば、そこには言葉の主がいる。
身の丈はファラよりも高い――のは当然として、平均的男性よりも頭一つ分高い。背中まで伸びる美しい髪は金色、吸い込まれるように澄み切った海原の青の瞳、緻密な計算の結果に整えられたようなただ美麗なる顔立ち、白く滑らかな肌の手と足と、白魚の如く指。
彼は男である。男であるがただ一言「美人」なる青年。何故に彼がそれ程までに綺麗なのか?と問われると、回答として一番簡単なのは「それは彼が、神々の寵愛を受ける『森林の妖精』だから」だろう。
彼の名は、セルシウス=ディグリィ。精霊達との営みの中に生きる森林の妖精の精霊使いだ。
「世の中には『依頼の成功報酬を仲間に掠め盗られた挙句に、借金返済に身を粉にする』ような忙しさだってあるかも知れないのですから」
「もの凄い具体的だけど、何?実例?セルシウスの友人か誰かの実体験?」
「飽く迄も
"物の例え"
ですよ。仲間に成功報酬を掠め盗られるなんて、そんな非合理的な事なんてまずあり得ないでしょうし。ただ、『忙しければ良い』と言う物でも無い、と言いたかっただけです」
言いながら、セルシウスは微笑んだ――その微笑の表情が硬いのは、単に彼の地だ――。
と、
「ふん」
そのセルシウスの言葉尻を詰るような捻くれた冷笑。次の瞬間には、セルシウスは不機嫌さを隠しきれない表情へと成った。
「私の言葉に何かご不満でも?」
表情だけでなく、言葉の端々に不機嫌さが伺える。人を一人挟んだ隣へと、険の立った視線を無遠慮に投げ掛ける。
そこには、一人の大地の妖精の姿。ファラより高いが、明らかにセルシウスよりも低い身の丈。顔の真中には大きな団子鼻、深く皺を刻んだ目元、豊かに蓄えられる顎鬚。そして体躯は縦に低く、横に広く、だが無駄なく筋肉で鎧う肉体美。ジーメンス――仲間からはジムと略される――と言う名の大地の妖精は、種族代表として恥じる事の無い容姿の壮年だった。
醜悪とまではいかないまでも、決して美貌の持ち主では無いジムは、しかし瞳には好々爺とした優しさの光を宿す。だが、一度戦いの中に身を投じれば、その瞳には激しい闘志を宿す、勇猛なる重戦士と化す。そして、種族的に友好的では無いセルシウスと会話を交わす時には、意地の悪い頑固親父のような色を灯す。
「ふん。他人の言葉に真っ先に否定の言葉から食って掛かるとは、森林の妖精らしく意地の悪い対応じゃのぉ、と思っただけじゃよ。気にするな」
「その物言いに対して気にせずに済ませられるような、大地の妖精並に無神経な脳細胞をしていられると思っているのですか?」
言葉遣いこそは丁寧だが、語調は明らかに怒気を孕んでいる。勿論、セルシウスの言葉に対して、ジムも険の強い視線で返す。
一触即発。足を止めて睨み合う二人の間から、
ポロン
と、軽やかな爪弾きの音が流れた。
「ほらほら二人共ぉ〜〜〜。苦楽を共にする仲間なんだからさぁ〜〜〜。もっと仲良くいこうよぉ〜〜〜」
間延びした――急っ勝ちな性格の持ち主にとっては苛立ちの原因にもなる――女性の声。その言葉が聞こえた瞬間には、二人の妖精はどこか毒気を抜かれたように脱力した。
女性の名は、ステラ=G=アン。年齢は26歳。身に纏う雰囲気は柔らかく、ファラからは「マシュマロみたいな」と、セルシウスからは「サクランボみたいな」と、ジムからは「キノコの傘のような」と、妙齢の女性としてはあまり嬉しくない形容を受ける事もしばしばだ。
そんな雰囲気のせいか、それとも童顔のせいか、若しくはその両方のせいか、兎に角ステラは年齢よりも若く――10代後半くらいに見られる。幼顔のわりに目鼻立ちは綺麗に整っている為、個人個人の審美眼次第で可愛いとも美人とも称される事だろう。
淡い緑を称える瞳を不釣合いに大きな帽子の下から覗かせると、青と赤が混じり合う空を仰ぎ見る。柔らかな気持ちを楽器の女王に乗せて、ポロンと二度軽く爪弾いた。その楽器の女王は、吟遊詩人にとって命とも言い換えられる。
「仲良き事は美しき哉〜。ほら、二人ともぉ。笑って笑ってェ〜〜〜」
明け透けな青空にも負けない笑顔で二人を交互に見詰めると、二人仲良く苦笑を浮かべているだけだった。
「ま、二人の喧嘩も収まった事だし」
「ジャレ合ってなぞおらん」
「ジャレ合ってなどいません」
ファラの言葉に食って掛かるが、二人の異句同意の台詞は、寸分の狂いも無く調和った。それを受けて男二人は不機嫌そうにそっぽを向き合い、女二人は楽しそうに微笑み合った。
「取り敢えず、夕飯にしようか?」
赤焼けの色で景色を染める準備を始めた日を確認しながら「そろそろ良い時間だしね」と、ファラが言う。
ファラの意見には特に誰からの反論も無かった。
「それでは、どちらへ行かれますか?姫君殿」
そのまま傅いてしまいそうな芝居がかった口調で問うセルシウスに、しかし答えたのはジムだった。
「《旧き名残り亭》にしようかのぉ。確か、今日はマスターお奨めの珍味料理の日のはずじゃ」
ジムの言葉に思い出されるのは、「マスターお奨めの珍味料理」の数々だった。それは例えば『翼竜の鰭ステーキ』だとか『単眼巨人の目玉焼き』だとか言った、稀少な食材を使った名物料理だ。但し、値段の割りに味も量も見劣りするため、実はそれほど人気商品ではなかったりする。そう言えば『石鶏魔獣砂肝の芸香炒め』なんて料理は、食した客の右腕が石化してしまい、大騒ぎになっていたと記憶する。そんな危険度大/見返り小な料理を好き好んで注文する客は、ジムを含める数人だった。
ジムの嗜好にゲンナリしつつも、それでもその他の「普通の」料理はそれなりの質を保っているので、セルシウス達も無理に反対はしなかった。
「ごっはん♪ ごっはん♪ 果物 野菜♪
獣肉 魚肉♪」
《旧き名残り亭》へ向かう道中、スキップしながら浮かれ気分で歌い出すファラ。そして、その即興音程に阿吽の呼吸で楽器の女王を合わせて爪弾く吟遊詩人。道行く人々に視線で「邪魔だ」と信号を送られたが、四人をそれを無視しつつ――四半刻ほどの時間を使って、目的地まで辿り着いた。
"蛇の這跡"
から離れた裏路地に埋まるようにして《旧き名残り亭》は居を構えている。立地条件の悪さにわりに真っ当な営業を続けていられるのは、それだけお客様からの信頼が篤いからだろう。実際、彼ら四人も《旧き名残り亭》のマスター・サビスには、大きな信頼を置いて接していた――珍味料理以外には、だが――。
漸く空が赤味を帯び、石畳に長い影絵を作り出す時刻だ。本当ならばまだ開店時間では無いが、サビスはそのような些末な事を気にする狭量な人物では無い。
ウキウキ気分で先頭を歩いていたファラが、《旧き名残り亭》の入口に手を掛け――まだ『CLOSED』の札が掛かっている――、勢い良く押し開けると同時に、厨房にまで聞こえる大声で叫んだ。
「まっすた〜〜♡ ちょ〜っと早いけどっ、おっゆうっはん〜 ちょっおだ〜〜いなぁ〜〜〜♡」
「やれるワケねぇだろうがぁ〜〜〜!!」
「しっつれい〜〜、しました〜〜〜♡」
パタン、と。開け放たれた扉は、5[sec]と経たずに閉められた。
「ふぁ……ファラ……ちゃん?」
背中から掛けられる恐る恐ると言ったステアの言葉に、
「こ――」
肩が――声も、震えていた。
力なく振り向いたファラは……
「怖かったよぉ〜〜〜〜」
大粒の涙を流しながら、ステラの胸に飛び込んだ……。
「だから、好い加減引き退がれって!!幾らオレでも、例えリルちゃん相手でも、仕舞いにゃ怒るぞ?!」
半身になって身を乗り出しつつ、そのド太い腕でカウンターを叩く。取り敢えず、現在の精神状態を『怒っている』と呼ばないのが、この店の慣わしらしい。
「だから、そこを何とか折れてくれってこうして頼んでるんじゃないですか!!」
こちらは全身身を乗り出しつつ、細い両腕でカウンターを叩いた。今にも相手の鼻先に噛み付かんと食って掛かる姿勢を以って『頼む』と呼ぶのが業界用語らしい。
成る程、実に勉強になる。内心で皮肉りながら、紅茶杯に口を付け――随分と前に中身が空になっていた事を思い出す。二人の剣幕を精一杯に皮肉ったのは、どうやら二人の剣幕に呑まれまいとする、精一杯の虚勢だったらしいと自覚する。
刻は火還りの刻も半ば(≒17:00)。青空を朱に、白雲を橙に染め、一日の仕事を終えた陽が眠りの床へと還る時刻。陽光取りの窓から長い影が伸び、店内を薄暗く照らす中。二人の争いは白熱していた。つい先刻、四人の客人が訪れた事さえ気付かない程に。
もうかれこれ二刻半になるか。二人の――サビスとリルの争いは。前半の一刻程はまだマシだった。サビスは懇切丁寧に諭して聞かせて説得を試み、リルも自らの悲惨の境遇を情に訴えた。
しかし、一刻を過ぎた辺りから、少しずつ雲行きが変化してきた。互いに頑として最後の一線を譲らない相手に業を煮やしたか、それとも単に苛立ちを募らせたのか。次第に両者の言葉から「道理」や「理屈」と言った物が欠落して逝き――現在に至る。理を諭すではなく頭ごなしな、情に絆すではなく勢い任せな、そんな激論に。
「だから、ダメなモンはダメだっつーの!」
「だから、そんな意地悪言わずにそこを何とかって言ってるでしょ?!」
「だから、意地悪じゃねぇ!!」
「だったら仕事を回してくれたって良いじゃない!!」
「だから、それはダメ――!」
「だから、なんでそんな意地悪――!」
「だから、ルールで決まって――!!」
「だから、ちょっとくらい融通を――!!」
「だから――!!!ダメ――!!!」
「だから――!!!そこを――!!!」
「「だからぁ!!!!」」
無限ループの堂々巡り。依頼人を放置した言い争いに、口出しの一つもしない依頼人は、正直大した器量だと思われる――まぁ、もしかしたら、二人の勢いに付いて行けていないだけかもしれないが――。
「大体、仮に俺が今ここで『じゃぁ、この件はリルちゃん、お前に任せた』と言ったとして!!それを、依頼人が承諾すると思うのか?!」
「それは――!!」
……。
不意に、訪れる沈黙。息巻いて身を乗り出したまま凍り付くリルと、吐き出した言葉に後味が悪そうなサビス。そして、その二人を交互に見守るギルバート。
沈黙の意味を、ギルバートは理解していた。だから……サビスの事を、少しだけ非難めいた色合いの瞳で見てしまっていた。
「理由は……。理解しているよな……?」
言葉の後悔を噛み締めたまま、少年の非難を甘んじたまま。サビスは多くの過程を省いてたまま確認を求めた。
「俺は、正直お前の事を信頼している。その若さで十を超える冒険行をこなして来た経験。魔獣相手に遅れを取らない胆力と戦闘力。それだけじゃない、あの女垂らしの我が儘エティルと鴨葱の賭博狂ファルの金銭感覚欠落連合を相手に財布を遣り繰りする経済力。冒険者としての腕前だけなら、半端者だなんて俺が言わせない、太鼓判だって押してやらぁな。だけどな――」
言い難そうにそこで一呼吸置き――それでも非情に、現実を突き付ける。
「女だから。未成年だから。リルちゃんには何の責任も無い所に、依頼人の信頼を勝ち取れない理由が――現実には、あるんだ……」
先刻までの激しい口論が幻聴であったかと錯覚する程に重い沈黙の中、同情と謝罪を等分に混ぜ合わせた視線を配り遣りつつも、それでも、自分の――冒険者の店の主人としての義務だろうか、リルを完全に諦めさせるべく、最後の追い討ちを掛けに入る。
「実際、ギルバートさんだって、リルをたった一人宛がわれても困るだろう?」
ここでギルバートが首を縦に振ろうものなら、最早リルには何の対抗手段は無い。流石に依頼人の意志や希望を無視してまで仕事を廻せと言える程、厚かましくも恥知らずでも無い。そして――その回答は、ほぼ確信に近い形で予想できていた。
ギルバートの、暫くの黙考。そして、回答。
「いえ、僕としては別に何の問題もありませんよ」
ギルバートの言葉を噛んで含んで――「はぁ……」と、リルの全てを諦観した溜め息。
柔らかな御尻は椅子に、悲哀に沈んだ面はカウンターに、それぞれ力無く預けて溢す。
「解かってるよ……。解かってるケドさ……。それでも――やっぱり、私は一人前として認めて欲しい……。いつまでもお兄ちゃんに負んぶ抱っこじゃ……」
「そりゃ、まぁ。俺だって解かってやりたい。いや、解かってやってる事もあるけどよ。それでも、現実は現実として受け入れて、その中で自分にできる事を探す必要があるさ」
「でも――」
「『でも』、じゃ無く。悪い事は言わねぇから、素直にエティルとファルを連れて来いって。さっきも言ったけどよ、事情を飲んで優先的に色良い話を回してやるからよ」
「……それしか……駄目?こんだけ頼んでも……?」
「それが罷り通るンなら、最初からこっちが折れてるよ」
はぁ……と、漏らされる溜め息が二度。そして、訪れる沈黙も再び。
暫しの沈黙を挟んで――
「何ぃ〜〜〜!!」
「えぇ〜〜〜?!」
同時に向けられる二人の驚愕の面相に思わず後退りつつ、ギルバートは胸中で呟いていた。
「反応遅いな、オイ」
と――。まぁ、俗に「ツッコミ」と言ったり言わなかったり。
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