「魔術について」


◆魔術とは

 魔術
 それは、精神(感情)を魔力と呼ばれる力に変換し、特定のプロセスを経ることで様々な現象を引き起こす術です。
 フィルライナにおいて、魔術学は理路整然たる学問体系の一つとして位置づけられています。


★魔術の歴史
 その起源は創世記。古の時代にまで遡るこの神秘の力―――魔術を、人類は絶やすことなく現在にまで受け継ぎ、弛まぬ努力によって研究を重ね続けることであらゆる場面に対し役立てて来ました。
 魔術の力は、例えるなら木の幹から分かれる無数の枝と葉です。生活を潤し役立てるものから、ただ相手を傷つけるだけのものと、効能ごとに細かく分化されたそれらの力は学者達の知的好奇心によって果てなく昇華され、結果、魔術文明に未曾有の繁栄をもたらすこととなりました。
 しかしながら、創世時代に失われて現在では再現不可能となった『封印術』や、危険な効果を持つ『禁術』といったものを仄めかす文献の存在が示唆する通り、魔術学は未だ完成された学問ではありません。学者達はこうした数限りなく発見される古の知識に触発され、失われし秘術の発見や、更なる新しい魔術を生み出さんと、今も飽く事なく研究を進めています。


★資質・知識・感性
 魔術学が他の諸学と毛色を異にするのは、それが選ばれし者にのみ与えられた学問であることです。
 魔術を行使するには凄まじい努力と修練が必要ですが、先天的な【資質】がなければ、幾ら頑張ってもそれらの行為は徒労に終わるのです。

 資質。その証となるのが、【】と【】の二つです。
 魔術を行使するには、引き起こす現象に見合った魔力がなければ発現させることは出来ません。この魔力とは、魔術を発動する際に必要な消費エネルギー(またはその量)を指しますが、これを体内で精製する能力は、古の魔族の血を引き、かつ緑色の瞳を持つ者にしか備わっていないのです。この身体的条件の有無こそが、魔術の才の有無そのものを決定するといえます。
 (稀に、この「瞳の特徴」に縛られない人間もいるようですが……)

 そして、資質を基として次に必要となるもの。それが、魔力を魔術へと昇華させる【知識】です。
 先にも述べたように、魔術は学問です。いくら血と瞳の条件を兼ね揃えた者であろうが、幼子に難解な方程式が解けないのと同様、何の知識もなしに魔術を行使することは出来ません。そのため、魔術に関する技術は専ら「師」と呼べる先達に教えを乞うのが常識となっているのです。そういった師弟関係を公式に結ぶ学び舎を、フィルライナでは魔術師ギルドと呼びます。 (詳細 → 魔術師ギルドの構成)
 無論、指導者なしの独学による魔術の習得も不可能ではありません。ですが、可能性が0ではないというだけで、極めて困難であることをこの場で言及しておきます。独学で身に付けたのならば、それは天賦の才と果てなき努力が成し得た結果といえるでしょう。もっとも、その学習速度は適切な指導を受けた場合よりも遥かに劣るでしょうが……

 さらに、魔術を行使するもう一つの鍵となるのが【感性】です。
 魔術とは、資質と机上論だけで扱えるものではありません。魔術の原動力は精神。自らの感情をいかにコントロールして魔力に練り上げるか、それを効率よく放出するかなどは、他でもない己でしか分からないのです。この潜在能力に長けているか否かで、魔術師としての力量が決定するといっても過言ではありません。

 資質を有するのは貴族。
 知識を与え、感性を磨かせるのは優れた師。
 そういった師に弟子入りするには莫大な授業料が必要……

 この事実から、一般的に魔術は「選ばれた血族にしか使えない高貴なる力」との見方がされています。




<ちょっと一口メモ :其の@>

★魔力精製部位
 魔術師の体の中には【魔力精製部位】と呼ばれるものが存在します。これこそが体内を流れる精神力を魔力に変換、精製する為の部位であり、遺伝でしか伝わることのない特殊な体内器官です。
 この部位は、人体のどこに共通して存在する、といった定義がありません。無形のものです。もちろん摘出も不可能で、人の「心」のようなものと考えて下されば分かり易いでしょう。個人によってこれは全く異なった場所に存在しており、統計的には脳や心臓付近であることが多いようです。学説では、この部位の有無が瞳の色に影響している、とされています。
 そして、この魔力精製部位は筋肉や臓器と同じく、酷使すると疲労します。無理に自分の能力を越えた魔術を行使しようとすれば、部位に過剰な負担がかかり、それは鈍痛となって術師に返ってきます(その痛みを得ることで、初めて自分の魔力精製部位がどこであるかを知ることが出来ます)。とは言え、筋肉と同様にゆっくり休養をとれば再び使用できるようになりますし、使えば使うだけ鍛えられ、連続使用にも耐えられるようになるという特徴も持っています。
 更なる魔術師の高みを目指すなら、勉強ばかりではなく実践もある程度必要となるのです。




◆魔術の発動

 魔術は発動法の違いから「詠唱魔術」「簡易魔術」と呼ばれる二種類のタイプに分かれます。
 以下、その二つの発動魔術について説明しましょう。

★詠唱魔術
 詠唱文を唱えたり複雑な印を切ることによって発動する、一般的な魔術です。魔術の大半はこの形式で発動されるので、普通は「詠唱魔術」ではなく、単に「魔術」と呼称されます。
 この形式の魔術は、大抵発動過程時間(プロセス)が長く、そのうえかなりの集中力を有します。雑念や物理的な邪魔で集中力を乱されると、初めからプロセスをやり直さなければなりません。戦闘時ともなれば、他人に守られながらでないと使うことは出来ないでしょう。
 しかし、時間を犠牲にした分のメリットはあります。詠唱や印組みは、魔術を発動する上で欠かせない動作であると共に、急速な精神力の消費を抑えて術者を安定させるという役割を担っているのです。きちんとした過程を経ることで、術者自身の精神、そして魔術の効果が安定します。

★簡易魔術
 プロセスを極限にまで減らし、行使する力の名称のみを唱えたり、簡単な印(指を向ける等)で発動する短縮発動魔術、それが「簡易魔術」です。単にプロセスを減らすだけならそれは短縮魔術ですが、この場合は最後の段階である「発動」のみをもって魔術を行使します。
 当然ながら発動時間は極端に短く、隙がほとんどありません。まさに実戦向けの魔術と言えます。ただし、必要とする技術力は桁違いで、詠唱魔術に比べると威力が多少落ちます。そのうえ、精神を安定させる為の必要動作を欠いている訳ですから、魔術の素人が下手にこの方法をとると精神の崩壊にすらつながる危険性もあります。達人ともなれば、それほど威力を落とさずに簡易魔術を行使することも可能ですが、戦闘を除く殆どの場合は詠唱を許す時間があることの方が多いので、無理にこの発動方法を使おうとする者は少ないようです。(習得してるか否かは別にして)
 この発動方法で魔術を扱える者は、強靭な精神力の獲得と膨大な知識の習得によって自然にプロセス短縮の法則を会得したか、または使う力を限定し、それだけを昇華させ、単に慣れで扱えるようになったか、いずれかの場合のみでしょう。(魔法戦士や騎士タイプの人間には後者が多いようです)




<ちょっと一口メモ : 其のA>

★魔力の過消費による人体への影響
 魔術を唱え続けていると、そのうち魔力精製部位が疲労し、魔力の精製が追いつかなくなることがあります。通常はその時点で魔術の発動は止まり、術者は魔力が尽きた事を自覚します。(ゲームで言う「MPが切れた」という現象でしょうか)
 しかし、その状態からでも、魔術師は無理やり魔術を行使することが出来ます。文字通り、力を振り絞るかのように。
 ただし、その場合は足らなくなった魔力を補うかのように、今度は術者が生きるために必要となる【根源的な精神力】、または【生命力】が使用されます。どちらが使用されるかは人によって異なりますが、共通して言えることは「消耗すれば生命に危険が及ぶ」ということです。
 まず、根源的な精神力を消耗した場合、始めに思考力が低下し、感情が鈍麻し、次いで意識が朦朧としていきます。この状態を、魔術学の専門用語では【詠唱酔いスペルシック】と呼びます。その由来は術者の体が酒に酔ったかのごとくふらつき、次第に感情のセーブが効かなくなって正常な判断が下せなくなる様子から来ています。これは急激な魔術の連続使用によっても罹ることがあり、極度に進行すれば永久的な感情の平板化、自我の崩壊など、取り返しのつかない症状を引き起こす危険性もあります。
 また、生命力を魔力に変換して発動した場合では、魔力精製部位に激痛が走るという大きなリスクが伴います。ほとんどの魔術師はこの荒業を行う際に襲われる痛みに耐え切れず、そのまま意識を失います。(なお、生命力を用いた魔術でも、龍族にダメージを与えるに至らないようです)




◆術具(マジックアイテム)とは

 「術具」とは、魔力を持つ道具、すなわち魔術の効力が込められた道具のことを指します。
 賦与魔術エンチャントの力によって製造されたこれらの品々の魅力は、魔術の才無き者にでも簡単にその秘められた力を引き出し、利用出来る点にあります。

 術具は大きく【使い捨て術具】と【装備術具】と呼ばれるものに分かれています。【使い捨て術具】は、特定のキーワードを発した後に、投げる・壊す・かざすといった単純な動作を取ることでその秘められた力を発揮し、また【装備術具】はただ身に付けているだけで魔力の恩恵を装備者に与えてくれます。
 これらは主に魔術師ギルドや術具専門店、冒険者ギルドといった正規の販売店から、路地裏の露店や闇市などのアウトローな場所で多数販売されており、懐に余裕のある冒険者や旅人は必要に応じてこれらの術具を購入し、旅の危険に備えます。


★術具の材質や形状
 術具に用いられる素材、そしてその形状は、実に様々です。
 ここで賦与魔術エンチャントの説明になってしまいますが、物質と魔術には相性のようなものがあります。相性が良ければ魔術が込めやすく、思わぬ効果が得られる場合もあり、逆に相性が悪ければ魔術を込めても本来の効果が出現しなかったり、すぐに力が霧散してしまうのです。また、魔術の効力の種類によっても相性は変わりますし、更にそれに合わせる材質の形状・大きさも影響するので、その組み合わせはほぼ無限に近く、これのみを研究課題とした魔術師グループも存在する程です。
 ちなみに、魔術と相性がいい素材のなかでも、特に霊木や宝石といった類は共通して多種の魔術の効果を最大限以上に引き出す力が眠っています。保存率も素晴らしく高いので、高価な術具には大抵何処かにそれらの材質が使われています。


★術具の価値
 大抵の術具は高値に設定される傾向にあります。
 その理由は、なんといってもそれらの利便性、扱いやすさ、そして希少性が、一般の道具を遥かに上回っているからです。ほぼ独占市場である影響からか、値下げ競争も特にないようで、なかでも持続的な効果を持つ装備術具に至っては価格単位10shg(≒十万円)は下りません。戦いに役立つ道具ならばその価値は更に上がります。たった一つの命と秤にかければ、それが妥当な値段なのでしょう。(それ故に、優秀な賦与魔術士エンチャンターは、時として金の卵と揶揄されることもあります)
 ましてや遺跡で発掘されるような現代の魔術学では再現不可能な力(封印術禁術)が込められた術具となれば、それこそ天文学的な値がつくこともざらです。遺跡荒しや裏売買人といった犯罪者が国の監視の目を盗んで活動するのも、この為です。
 ちなみに、一般人が気軽に買うことの出来るように大量生産された庶民的な商品もあります。

 以下、特殊な術具の説明です。


★生活用術具
 一般人用に調整された、日常生活用途の術具。庶民がお目にかかりやすい術具といえばこれでしょう。
 使い捨ての「手持ち全身懐炉」「念写式撮像紙」などといったものから、家屋設備として何度でも使える(寿命はありますが)「光源」「冷暖房具」「調理器具」といったものまで、実に様々な種類の生活用術具があります。気楽に買い求められるのは、やはり前者です。後者は少し値が上がるので、裕福な家庭でないと手に入れることが出来ませんが、たまに専門店で季節の変わり目売り尽くしバーゲンフェアとかやっているようです。

★空術具(発動補助媒体)
 術具の中には、賦与魔術エンチャントで魔力を込めず、単に素材だけで成された空の状態のものがあります。最たる例として挙げられるのは、魔術師が手にしている杖、そして指輪等といったものでしょう。
 素材には特徴があって、特定の魔術の発動を手助けする力が含まれています。これらと併用することで魔術の威力が強化され、短縮発動に似た効果を得られるのです。
 魔術を習いたてでまだ発動も覚束ない初心者は、大抵これら空術具の力を借りることで、初めて力を行使することに成功します。しかし、初心者だけでなく、達人に至るまで愛用されているのがこの術具の特徴であり、まさに魔術師御用達の道具であるといえます。
(魔術師ギルドの身分証明として扱われている宝石にも、若干ながら魔力を強める効果があります)

★永続術具
 魔術を永続的に使用出来るようになる、特殊な術具です。
 一般に術具とは「魔術の効力が込められた道具」のことを指しますが、その魔力は無限ではありません。使用を重ねれば、遅かれ早かれ込められた魔力はいつか必ず枯渇する日が訪れます(空術具は除きますが)。術具には寿命があるのです。
 この【永続術具】は、それら一般の術具とは根本的に内部構造が異なっていて、寿命という鎖から解放されています。 そのからくりは、擬似的な【魔力変換部位】【古の知識】が搭載されているという点にあります。つまり、この永続術具とは装備者の精神力を糧とすることで機能する術具なのです。
 精神力は生きとし生ける全ての者に流れる力ですから、これを身に付ければ一般人でも魔術が発動できるようになります。しかも、その発動は全てが「簡易魔術」形式。手に入ればこれほど便利なものはありません。
 しかし、多少の欠点もあります。まず、それだけの構造を有していながら使える魔術はその術具に込められた力一つ限りであること。そして、詠唱酔いスペルシックに対する免疫がない一般人が多用すれば、いとも簡単に症状を呈し、場合によっては即死に至ることがあることです。
 このタイプの術具は非常に希少性が高く、存在はあまり知られていません。価値も大きく、これ一つで王都の一等地に大きな屋敷が一つ建てられます。もちろん、込められた魔術によっては、値段も更に変動するでしょう。